うつ状態・うつ病の患者さんへのアプローチ

みどり

憂うつな気持ちになることや気力が減退すること、判断や決断が出来なくなることなどは誰にでも起こり得ることです。憂うつな気持ちになったり落ち込んだりすることは、むしろ自然なことかもしれないと思います。というのは、人生には喪失や悲しみがつきものだからです。喪失や悲しみは辛いものですが、それをしっかり受け止めることで私たちは前向きに生きていくことが出来るのでしょう。しかし、憂うつな気持ちや無気力などが自分ではどうにもならない状態に陥った場合をうつ状態と呼びます。

一言でうつ状態といっても色々のタイプのものが含まれています。代表的なものに、従来からのうつ病、躁うつ病のうつ病エピソード、ストレス、トラウマや不適応などが起因となる反応性のうつ状態、パーソナリティ障害や広汎性発達障害(アスペルガー障害)に伴ううつ状態などがあります※1。たちメンタルクリニックでは、患者さんがうつ状態にある場合、どの診断が妥当かというアセスメントをとても重要視しています。というのは、うつ状態は、症状は似ていても診断によって対応は大きく異なるからです。また、そこでの判断が間違ったために、必要以上に治療期間を要したり、不必要な薬物投与が行われたりするといった不幸な事態も起こります。

うつ状態、うつ病の診断のポイントは、急性であるか慢性であるか、抑うつのエピソードは今回が初めてなのかこれまでに何回か繰り返しているのか、今までに躁的あるいは軽躁的なエピソード※2があったのかなかったのか、ストレスやトラウマなどといった直接的誘因や原因がはっきりしているのかいないのか、元々のパーソナリティはどのようなものなのか、広汎性発達障害(アスペルガー障害など)の傾向はないのか、症状に変動はあるのかないのか、遺伝負因はあるのか、現在の環境は患者さんの不安を軽減しているのか高めているのか、などです。判断が難しい場合には、一時的に薬物療法を行って、その効果を見る、ということも行われます。

また、たちメンタルクリニックでは、うつ状態の治療においても多くの場合にカウンセリング(すなわち、精神分析的な精神療法)が有効であると考えて、アプローチを行っています。

具体的なアプローチ

受診された患者さんに対しては、先ず苦痛の除去を行うことを目指します。多くの場合、うつ状態では、消耗疲弊が強いので、休養を取っていただく、というのが最初の一歩ですが、現代社会では十分な休養を取っていただくのが難しくなっていることも事実で、なるべく休養を取っていただけるよう環境調整を行うこともあります。また、なるべく休養を取っていただくために、抗不安薬や睡眠導入剤などを一時的に使用することもあります(勿論、患者さんが希望された場合のみです)。それと並行して、診察、心理検査などを通して、診断をきちんとつける作業を行います。診察では、表面上の症状を評価するだけでなく、背景にある要因を探ることを重視しています。そのために、診察を繰り返し受けていただくことになります。そうして診断、アセスメントが確定した後、今後の方針について患者さんと話し合う時間を設けています。

うつ状態のセラピーについて

現代の精神医療では、うつ状態に対しては抗うつ薬(SSRIなど)による薬物療法や認知行動療法が一般的に用いられています。また、躁うつ病のうつ病エピソードの場合には、抗うつ薬の他に、気分調整薬(炭酸リチウムなど)が用いられます。当クリニックでは、躁うつ病の患者さんには、薬物療法を中心に行います。また、従来型のうつ病には、抗うつ薬が効果を発揮すると考えています。これは、従来型のうつ病と躁うつ病の場合には、生物学的な(器質的な)要因が大きいと考えられるからです。しかし、従来型のうつ病や躁うつ病のうつ病エピソードにおいても、心理的なアプローチが無効というようには考えていません。一旦抑うつ的な状態が始まると、それに罪悪感や無力感、無価値感などが絡み合って、一層うつ状態が増悪するのが一般的です。その絡まり合いをほぐし、問題点を明確化するのには、心理的なアプローチが、すなわちカウンセリングが効果を発揮すると思います。

それ以外のうつ状態に対しては、抗うつ薬の効果は不安を減少させることに限定されていると考えています。また、たちメンタルクリニックでは、認知行動療法は基本的に行っていません。認知行動療法は一時的に症状緩和を目指す方法であり、短期的には有効であっても、長期的な効果に関しては疑問があると思うからです※3。現在、当クリニックを受診されるうつ状態、うつ病の患者さんのかなりの部分は、従来型のうつ病ではなく、元々考え込んでしまう性格傾向や内向的なパーソナリティ傾向がある人たちが、何らかのストレスやトラウマが引き金となって、抑うつ的となった方々です。中には、発達障害(アスペルガー障害)の傾向があるために、気分のコントロールが上手く出来ない方々も含まれています。このような場合には、薬物療法は症状を一時的に緩和させようという意味で補助的であり、むしろ性格やパーソナリティについて考えていく心理的アプローチ(カウンセリング)が根本的かつ重要な治療選択となるでしょう。トラウマやストレスを克服するためにも薬物療法は補助的に用いられますが、中心となるのは自己価値を高めることを目指したカウンセリングでしょう。カウンセリングを受けることによって、自己理解を深めることは、再発防止にも役立つと考えられます。ただ、そのためには、外来通院とともに、上本町心理臨床オフィスや、その他の施設でのカウンセリング(全て自費になります)を受けていただくことが必要になります。

いずれにしても私たちは、皆さんのうつを完全に解消することは目指していません。うつの感情が苦痛となっている場合は、その苦痛を軽減するための治療を行いますが、自分の人生をふりかえったり、自分を見つめたりしても抑うつ的にならない方がおかしいと私たちは考えています。私たちは、うつを自己理解を深める一つのきっかけと捉えています。だからこそ、カウンセリングが重要になってくるのです。

※1 たちメンタルクリニックでは、最近言われるようになったディスサイミア型うつ病、あるいは新型うつ病の概念は用いていません。それらの状態はパーソナリティ障害、もしくは発達障害に併発するものと考えているからです。

※2 躁状態では、気分が高揚したり、自己感が拡大したり、攻撃的になったりするなど様々な症状が見られますが、ごく軽度の場合や、短期間だけ持続する場合もあります。

※3 認知行動療法を希望される方には、他の診療機関・カウンセリング施設を紹介しています。