成人の発達障害に対するアプローチ

PDD

最初に述べておかねばならないことは、今日、発達障害の診断は曖昧であり、明確に診断をつけることはとても困難であるということです。精神医学会でも概念は確定しておらず、過剰診断・過少診断が問題となっています。そのことを踏まえて以下をお読みください。

発達障害にはいくつかのタイプがあることが知られています。代表的なものに、自閉症スペクトラム障害(ASDまたは広汎性発達障害とも言われます)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがあります。従来の診断基準ではこれらを分類していましたが、最近ではこれらは重複すると考えるのが一般的になっています。子ども時代はADHDが目立つのですが、成人になるにつれてASDが目立ち、不適応の原因となる比重が高まります。ASDは以下に示すような特徴を持つと言われています。

  1. 社会性の障害(たとえば空気が読めること)
  2. コミュニケーションの障害(たとえば相手の言っていることを理解すること)
  3. こだわりが強く想像力が乏しいことを症状とする障害

アスペルガー障害や自閉性障害もこれに含まれます。原因は不明ですが、性格の問題というより、生まれながらの傾向と考えられていますが、そのことが理由で社会適応に困難が生じた場合に「障害」と考えます(そうでないグループの方がたくさんいるということです)。実際には当クリニック外来では、ASDの傾向や特性があったり部分的に見られるものの、「障害」とは言えないケースが過半数を占めています。

近年、ASDについての認知が高まるにつれ、ご自分でASDではないかと考えたり、周囲からASDかもしれないので調べたい、と言われたりする方が増えています。また、抑うつ・無気力などの症状があるため、他の病気として長期間治療を受けているものの余り変化が見られず、自分には少し変わったところがあるので、もしかすると自分はASDなのではないかと疑問を持たれる方も増えています。当クリニックではそういう方の診断、相談、治療を積極的に行っております。具体的には、以下に示すアプローチで行っています。

診察の流れ

電話での予約の際、ASDではないかと疑っている旨をお伝え下さい。

診 察

医師による初回の診察で、ASDの可能性が高いか低いかを判断します。ASDでは、抑うつ、不安、自信欠如、対人過敏性、被害感、気分変調、希死念慮などといった症状が二次的に起こりやすいことが知られています。こういった二次的な症状の有無も判断します。

ご留意いただきたいのは、人間にはそれぞれ能力の偏りがあり、それが個性の一部になっているということです。その偏りが上記の1~3にあるような特定のパターンを示しており、しかもその結果として社会不適応が起こっている場合にのみ、ASDと診断されるということです。人間は自分の不得手なことを他の能力で補うものですから、能力の偏りがASDのパターンに近くても、診断がつけられるとは限りません。また、この診断は経験的に行われるものなので、確定することは難しいこともご理解下さい。

ASDの可能性が低い場合

その旨をお伝えします。子ども時代の養育などの結果が、ASDと類似の症状を呈する場合などもあります。詳しく調べたい場合はお申し出下さい。

ASDの可能性が高い場合

「成長発達の調査票」をお渡しします。記入して次回ご提出下さい。この調査票と診察での所見をもとに、診断を確定していきます。より詳しい評価やアセスメントが必要と思われる場合には心理検査(予約制・保険適用)を行います。以上の結果をもとに、総合的に判断して医師より診察し、結果をお伝えします。

ASDといっても様々な病態が含まれています。また病気の自覚のある場合とない場合があり、適応上問題のある場合とそうでない場合があるので、その点を詳しく検討していきます。さらに、合併障害の有無(しばしばADHD、軽度の知的障害などを合併します)、二次的障害の有無や可能性を検討します。それをもとに、患者さんと今後の治療方針を相談していきます。

ASDは病気というより、脳の特性です。脳の特性が他の人と異なるために、社会適応が困難になるという場合がほとんどです。ちょうど左利きの人が右利き中心の社会では色々と不便になるのと同じことをお考え下さい。現在の社会の仕組みが、ASDではない人に合わせて構成されているため、ASDの人は適応しにくいということも理解するとよいでしょう。今後の方針には、簡単にまとめると以下のものがあります。

  1. 当面の経過を見ていく:適応上問題がない場合などです。
  2. 社会適応の向上をはかる:適応上問題がある場合です。具体的には、関連の書物などを読んで知識を増やす、患者勉強会への参加(当クリニックでも実施しています。詳しくはこちらをご覧ください)、家族や職場の理解を得る、などがあります。
  3. 障害者の認定を受けて行政の助けを借りる:社会適応が困難な場合です。障害手帳の取得、就労支援など様々な援助を受けることが可能ですので、ご相談ください。但し現在の日本ではASDの方に対する行政の援助は十分とは言えません。
  4. 二次的障害・合併症の治療を行う:薬物療法やカウンセリングが有効な場合が少なくありません。
  5. 自己理解を深めるためにカウンセリングを受ける:カウンセリングには、教育的・支持的なものと、自己洞察的なものがあります。ASDは脳の障害だからカウンセリングをしても意味がないといった記述を見ることがありますが、たちメンタルクリニックはこれとは異なる立場に立っています。脳は可逆的であり、変わりうるものです。多くのASDの患者さんにカウンセリングが役立っています。特に「自分や他人がどのように考えているか」を考えるメンタライゼーションという方法が有効です。是非ご相談下さい。但し、カウンセリングは自費となります(併設の上本町心理臨床オフィスなどで行います)。

※家族や親しい知人がASDではないかと思われるが、どうしたらよいのかと思われる場合は、精神保健相談(自費)をお受け下さい。