臨床コラム オオカミの家

 今回はコラムというか、映画の感想です。
 「クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャの二人組による初の長編映画『オオカミの家』は、ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン【コロニア・ディグニダ】にインスパイアされた “ホラー・フェアリーテイル” アニメーション。チリ南部のある施設から逃走し、森の中の一軒家で二匹の子ブタと出会った娘マリアの身に起きる悪夢のような出来事を描いている。」

公式HPより
http://www.zaziefilms.com/lacasalobo/

 「オオカミの家」は(ネタバレになるので詳しくは書かないが)カルト集団と女性との関係を描いた映画作品である。けれど彼女(マリア)自身が自分の心情を吐露することはないし、そこで彼女が被る心理的なトラウマについての明確な説明もされない。ストップモーションアニメによる場面の描写が続く。背後には不快な音、加えて単調なモノローグがずっと続く。そして転換かと思いきや繰り返し。その刺激を浴びせられ続けることで、見ている人間(私)は時間と空間の感覚が破壊される。現実感がなくなるのだろう、足がむずむずしてきて、まさに地に足がつかないようになる。隣の人に話しかけようか? いや、それよりもっと大声を出したい衝動に駆られる。

 狼は分かりやすくカルト集団だろう。他にも象徴的な仕掛けはさまざまに描かれる、トイレ、読み聞かせ、時計などなど。では、豚は?一緒に逃げ出した子どもだろうか、マリアの解離した自己の一部か、あるいはマリアが産んだ子どもかもしれない。

 というように考えることで狂気(と言って差し支えないと思う)に抗うが、結局は途中軽く眠ってしまった、思考の破壊。70分ほどの映画だが、これは2時間あったら耐えられなかったと思う。

 ショッキングな描写のせいでこころが削がれるということはない。が、そこにいるという体験自体がとにかく不快で、終わった後はぐったり疲れる、とても身体的な映画だった。

 心理療法でもこういうことはありますよね。心理療法というと静かそうで、運動といっても話をするのに口を動かすくらいと思われがちですが、つい身振り手振りが出たり、汗をかいたり、終わってみるとマラソンでも走ったかと思うような疲労感があったり、とても身体の運動を伴うものですね。

(文責:石田 拓也)