臨床コラム ライフサイクル

 人は,その誕生から生涯を閉じる死までどのように人生過程を送っていくのでしょうか。

 このような過程や様々な人生の段階をライフサイクル (life cycle)とよんでいます。

 人生周期で人間は生物的な成熟・衰退のみではなく,年齢の時期に応じて社会・環境への適応を発達課題として求められて,生物学的・環境的な条件に対処しながら成長します。  

 皆さんはよくご存じだと思いますが,孔子が論語の中で述べた言葉を引用しましょう。

吾十有五にして学に志す。

三十にして立つ。

四十にして惑わず。

五十にして天命を知る。

六十にして耳順う。

七十にして心の欲する所に従って矩を踰えず。

 今から2500年前の孔子の言葉です。この時代の平均寿命が何歳ぐらいなのかは知りませんが,その時代の人々の人生の指針になってきたことでしょう。このような人生周期を今日の我々が同じように歩むのは難しいですが,孔子の考えはライフサイクルの各時期の課題を述べ,重要な側面を表していると思います。

 ライフサイクルの言葉が一般に周知されるようになったのは,精神分析家のE.H.エリクソンにより人生の経過を8つの時期に分けて論じてからでしょう。

<エリクソンのライフサイクル理論>

人生時期  ポジティブな面 ネガティブな面

1. 乳児期    (基本的信頼 vs 不信)
2. 幼児期前期 (自律性 vs 恥・疑惑)
3. 幼児期後期 (自主性 vs 罪悪感)
4. 児童期   (勤勉性 vs 劣等感)
5. 青年期   (アイデンティティvsアイデンティティの拡散)
6. 成人前期  (親密 vs 孤立)
7. 成人後期  (生産性vs 停滞)
8. 老年期   (統合性 vs 絶望)

 現在は我々の平均年齢が女性は87歳,男性で81歳であり,人生100年時代に向かっています。さらに現代社会の急激な変化が人々の生活の価値観に変化をもたらし,地域社会などへの帰属意識や人間関係が希薄になってきています。このような変化は人々の人生過程にも大きな影響を与えて,揺らぎをもたらしています。

 人生は各時期で心の危機の連続です。この危機に直面した時にライフサイクルから理解することは,人の一生という全体を視座に置いて考えることができます。過去から現在のみならず,将来の人生航海を自分らしく生きるための羅針盤として役立つでしょう。

(文責:鈴木千枝子)