臨床コラム 痛み

痛みは身体と心からのメッセージ

 身体的な痛みは,外傷であれば出血で,骨折や腹痛などの痛みは検査をすれば分かります。しかし心の痛みは外から見てもわからず,触れることも出来ず,本人すらわかり難く,気づかないことが多いです。このように痛みには「身体」と「心」の二面があります。

 そもそも痛みは何を我々に語っているのでしょうか。痛いは,体の不具合や心の苦しさなど何らかの不調・問題を知らせるサインやメッセージだと思います。

痛みは不思議

 痛みは不思議です。同じ痛みであっても,経験した人によってその痛みの程度が違います。すなわち痛みは人と同じ感覚ではなく,個人の情動的・認知的側面を含んだ主観的体験です。痛みを痛みとして感覚するには,自身の心も大きく関わっています。

 痛みの症状を自覚すると,病院で検査を受け“異常がない”と言われても「何か異常があるはずだ」と別の病院に行き,ドクターショッピングに奔走する人も少なくありません。身体が痛いのに医療機関で異常がないときほど,心の痛みに目を向けてください。心の問題から知らないうちに逃げようとしてはいませんか。心因性の痛みは,不安や怒りなどの心理状態と向き合うことを避けるために身体の特定部位に痛みを引き起こしている場合があります。

身体の痛みと心の痛みの関係

 痛みが続くと悩まされ何かの病気ではないかと身体を心配し,不安を抱いて心も痛みます。自分の苦しさを誰も理解してくれないと訴え,心の痛みから身体の痛みを引き起こすこともあります。このように身体性と精神性との区別がつかない場合があります。

 昔から「病は気から」と言いますが,心の状態は身体の状態に強く影響を与えます。心と身体の関係ついては,心と身体を一体としてとらえる『心身一如』という思想があります。『心身』は心と身体のことで,『一如』は仏教用語で,現れ方が異なっていても元は一つのものであるという考えで,心と身体は密接に関係しているという。東洋医学の分野でも,この考えが基になっています。

痛みへのアプローチ

 心因性の痛みは,その発症や経過に心理的因子が関与し不調をきたし,痛みとして症状に現れます。身体と心の治療は表裏一体で,身体の痛み症状だけに対処しても心の問題に対処しなければ,なかなか症状は良くならないでしょう。このような痛みに対して心理分野からのアプローチは必要で,心身の両面から痛みの治療を行うのが望ましいです。

                                 (文責:鈴木 千枝子)