臨床コラム 居場所

 日常生活を送る中で,ふと「自分には居場所がない」と感じたことはありませんか。

 「居心地がいいと感じる場所」について考えてみることはありますか。

 「居場所」と言う言葉は,日常的によく使われていますが,「あなたにとって居場所はどこですか」と改めて問われると答えるのは難しいものです。

 広辞苑(第七版)では「居場所」とは「いるところ。いどころ」と記載されています。人がいるところという物理的にその人が存在している場所についての言葉です。近年は自分らしく居られるところといった心理的な意味合いが含まれ,「居場所が見つかった」「子供の居場所づくり」など,ありのままで居て安心できる心理的居場所として用いられています。

 家庭では「家族の中で居場所がなく,家にいるのがつらい」,学校はいじめで「学校に行きたくない」,会社では上司・同僚・部下との人間関係に悩んで「居場所がないと感じている」などと,誰しも日々の生活の中でさまざまな不安や悩みを抱えています。「居場所がない」と感じるのはとてもつらいものです。

 そこに「居る」のを可能とするには,安心感・受容感・落ち着く・自分自身を肯定する感情(自己肯定感)・所属感が持て,自身の存在を確認できる「こころの居場所」です。

 私たちの心理臨床の場に来られる方々から「家には帰りたくない」「家はただ寝るところ」「仕事をしていると周りが気になり落ち着かない」「学校では誰とも話したくない」などと語られ,こころの居場所を得ることが困難,居場所を失っている場合が多いのです。

 このような苦痛をもつクライエントさんは,気づいていなかった自分自身を知り理解すると安心できる場所,ありのままでいられる居場所を見つけることができるでしょう。その居場所で人との絆を紡いでいくことは,とても大切であると思います。

(文責:鈴木千枝子)